赤本

〜第四話〜

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1時間後、俺等は今この村の長である人の家で沢山の人に囲まれて座っている。
あれからすぐに村長に知らされ、急遽歓迎会が開かれたのだ。
家の入口では、家に入りきらない人たちで押し合い、圧し合いになっているほどだ。
そんな中、一人の男が話し掛けてきた。
「本日は遠路はるばる、こんな辺鄙な島へ来ていただいてありがとうございます。私一応この村の村長を
務めている、村井といいます」
村井と名乗る男は、年はまだ20代ぐらいだろうか。 髪の毛はビシッと7:3で分かれていて、眼鏡をかけ、いかにも出来るという印象を与えてくれる人だ。 
ただ、どことなく近寄りがたい雰囲気がある。
この年でこの村の村長を務めているというのか。 
普通は高齢の方が務めるというイメージがあるだけに、何かあるのではないかと思ってしまう。
「どうも、陰陽師の池上です」
とりあえず自己紹介。陰陽師の事は、もうどうせバレているんだし別に言ってもかまわないだろう。
「私も同じく陰陽師の安倍です。 わざわざ私達のために、こんな大袈裟な事をしてもらってありがとうごさいます」
普段の俺に対しては絶対に見せない、この態度。 また猫かぶってやがる。
「いえいえ、いいんですよ。 こちらとしては願っても無い事ですし。 それで、池上さん、安倍さん。
いきなり本題に入って申し訳ないのですが、やはりこの島に来た目的。それは"鬼"ですか?」
俺と加奈はお互い目を合わし、確認をして言った。
「あぁ、俺達はこの島の鬼の封印をしに来た」
そう言った瞬間、周りの聴衆から歓声が上がった。
「やはりそうですか、それはありがたい。 われわれも鬼の被害にまいっていて、どうしようか悩んでいた所なんですよ」
「じゃあ早速、今この島で何が起こっているのか教えてもらえますか?」加奈が穏やかな口調で言った。
「えぇ、もちろんですよ。 事件が起こり始めたのは3ヶ月前からでした」

「まず一番最初に起こった事は、村人の一人が森の中で鬼を見たという報告からでした。
その時、我々はたいして、そのことを気にしていなかったのですが、それから10日後です。 村人の一人が
「ちょっと森へ行ってくる」と言ったきり行方不明になってしまいました。
もちろん我々は全力で探したのですが、結局見つかりませんでした。
しかし、10日後、なぜか森の入口で行方不明だった男を見つけたのです。
腰から下が存在しない状態で・・・。
その傷跡は何者かが食いちぎったような痕で、自然に起こる事は決してない傷でした。
それから今日までそのような事件が連続して起こり、老若男女問はず、すでに12件も起きています」
村長の村井さんはそう言って、頭を抱えた。
「それって、ただの野獣って事はないのか?」
「それはありません。 この島には人間を喰らうような大きな野獣は存在していませんし、
そうだとすると、封印された鬼の仕業としか・・・」
ただの鬼の封印と聞いていたが、まさかここまで事態が拡大しているとは。
これは鬼の化身との戦いは避けられないだろうな。 その時俺の頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
ん?まてよ。 鬼が封印されてる状態で、そのような事を成し遂げる事は可能だっただろうか。
前に見た書物には、"封印状態の鬼は催眠状態に陥り、外部との干渉はほぼ制限される"と
書いてあったはずだ。 できても会話ぐらいだろう。
それがここまで、力を及ぼしているとは・・・何かあるな。
俺がそう考えていると、加奈が突然立ち上がって言った。
「とにかく、私達がなんとかしますから皆さんは安心してください。 私の力をもってすれば、鬼の一匹や、二匹、朝飯前ですから」
まわりの聴衆から、先ほど以上の歓声が湧き起こる。
加奈とはこういう奴だ。 人に期待されれば、されるほど、それに応えて何も考えずになんでも引き受ける。 
まぁ、今回は元々それが仕事だったからよかったのだが、
以前はその性格のせいでひどい目にあった。 ここでは長くなるので
またいつか機会があったら話そう。
「とにかく、今日はもう遅いのでひとまず宿の方でお休み下さい」
俺等は、村長さんの言われるままに宿のほうへ向かった。

宿に着くと、先ほどの年老いた男が俺等を出迎えてくれた。
「やぁ〜、いらっしゃい。 こんなボロい所で悪いね」
「いえ、慣れてますから」
今日の所はまだ家としての形を保っている。 マシなほうだな。
「じゃあ部屋を2つ借りたいんだが?」
「2つかい? すまんねぇ、今うちで使える部屋は1部屋しかないんじゃ。 他の部屋はちと訳があってな」
1部屋だと? という事は、一晩中加奈と一緒の部屋にいる事になる。
普通の女の子なら、ここは神に感謝を捧げるところだが、加奈は別だ。 何か嫌な予感がする。
「いいですよ、別に一部屋で」加奈は普通にそう答えた。
そして俺の方を見て一言。
「夜の内は、あんたには寝袋に入っていてもらうから。 もちろん出て来れないように、寝袋の口を閉めて、
紐でグルグル巻きにしておくわよ」
「何で俺が?だいたい・・・」
「じゃああれを使うわ。 船の上での約束覚えてるでしょ? "何でもする"ってやつ。 あれを行使するわ。
本当はこんなとこに使うなんて勿体無いんだけど」
俺は呆然と立ちすくむしかなかった。 男として一度決めた約束を早々と破ることはできない。
まして、加奈との約束は破ろうにも、破れないだろう。 しかし、ここでそれを持ってくるとは。
第一加奈の頭の中には人権尊重という言葉はあるのだろうか・・・。