赤本

桃太郎という話がある。
昔々あるところに爺と婆が住んでいた。
爺は山へ柴刈りに行き、婆は川で洗い物をしていると、川上から桃が流れてきた。
婆が桃を拾い上げ、爺とともに切ろうとすると、中から男の子が生まれたので、
桃太郎と名ずけて大切に育てることにした。
桃太郎はみるみる大きくなり、鬼が島へ鬼退治に行きたいと言うようになった。
婆に作ってもらったきび団子を持って出かけた桃太郎は、途中で出合った
犬と猿と雉にそれを与え、お供にして連れて行くことにした。
桃太郎は、犬、猿、雉の助けで鬼を退治し、そして爺と婆の元へ宝物を持ち帰った。

どうでした?「桃太郎」の話は。 多くの人はこの話を知っていると思いますが、
実はこれ、後から書き換えられた話なのです。 実際は・・・
いや、まだ言うのはやめておきましょう。 きっと、本文の中で彼らが語ってくれるはずです。
さて今回の話は、この「倒す者」と「倒される者」という関係に焦点をおいた作品となっております。
この関係は、過去から現在、そして未来永劫ずっと存在し続ける関係だと思いますが、その間には
きっと様々な恨みや、憎しみ、そして悔しさなどがあったのではないでしょうか。
では、そろそろ本文に入りましょう。これ以上の前書きの延長は皆様には不快でしょうから。
それでは、この世界をお楽しみ下さい。


「今日は何事も起こりませんように」
俺の第一声はいつもこれだと決まっていた。 こんな言葉を現役高校2年生の男が
毎日言っているなんて、どんだけ人生辛いんだよ!とつっこんでやりたいと思うだろうが、
実際学校での生活は悪くはない。 いや、むしろ最高ともいえる時間を過ごしているだろう。
友達とだべったり、つまらない授業を寝ながら過ごしたりなど、俺の日常生活から比べれば、どんだけ
平和で心が落ち着く時間を過ごしているのだろうか。
まぁ、こんな事を愚痴っても俺の生活が何も変わらないと言うことは目に見えているのが・・・

というわけで、俺は今のところ、「何事も起こらず」に学校へと登校している最中だ。
周りには、顔は見たことあるけれど、名前は知らない程度の学生達が一人で俺と同じ目的地を目指して歩いている。
俺が彼らと今決定的に違うことと言えば、俺の隣りには女の子が一緒に歩いていることだろうか。
しかもかわいい。 彼女の名前は安倍加奈。肩まである髪の毛を風になびかせながら、くるりとした目を前方に向けて黙って歩いている。
その顔はファッション誌のトップを飾ってもおかしくないほど、整った顔をしていて、体型もスラリと細く、
要は完璧な存在である。
まぁ、端からみりゃ、俺は最高の幸せ者だと思われているかもしれないが、それは断じて違う。
神に誓ってもいい。 それには二つ理由がある。
まず第一に、彼女は外面的には誰もが嫉妬するほどの素晴らしい美しさを醸し出しているが、内面的にはそのプラスを打ち消すほどひどいものがある。 つまり非常に性格が悪いということだ。 しかも、これ人前ではねこかぶりをしやがる。
彼女の本当の性格を知っている者は少ないだろう。
そして二つ目、これが重要なのだが、俺達は別に仲が良いや、付き合っているからなどの理由で、毎朝一緒に登校しているという
わけではない。 これは俺が先程言った、「生活」ということに絡んでくることなのだが、どうしても一緒にいなくてはいけないのである。 いつ連絡が来るか分からないのだから・・・

ふと見ると、隣りで歩いていたはずの加奈の姿がなくなっている。
後ろを振り返ると、俺から2、3メートル離れたところで、加奈は携帯をじっと見つめていた。
そして顔をこちらにむけ一言、そう、俺がこの世で一番聞きたくないあの言葉を言い放った。

「仕事がはいったわ、早速現地に向かうわよ」

あぁ、これでまたあの平和の園「学校」という所には行けなくなってしまったわけで、
また危険と隣り合わせの仕事を遂行しなくてはいけなくなったわけで・・・
俺はこのまま鬱になってしまうのではないかと思いながら、加奈に引きずられ学校から離れていった。

〜第一話〜

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